キャリア教育の弊害

おさかなです。
就活関連でなかなか面白い記事を見つけました。

ホンネの就活ツッコミ論(24) 理学部は就職に弱いか、強いか 専攻格差と早めの判断が分かれ道

大学での専攻によって必要とする企業の数が大きく異なってくるという話です。
数学科や化学科、物理学科(物性)だと専攻での学習内容を役に立てやすい一方で、それ以外の理学系統の専攻だと、得た知識を生かせる機会は一般的には多くないという学科間の差に言及しています。

私が生物系院生として体験したり、友人から聞いたりする話とかなり一致しています。
著者は社会学部卒とありますが、日本の全大学を訪れたというそうでなかなか綿密な取材をしていますね。

進路選択を考える高校生の皆さんに(特に文理選択や志望学科選択を考える低学年のうちに)読んでもらいたい記事ですね。
建前としてどの学科も平等と唱える高校や大学の先生方からはなかなか出てこない現実的な視点です。

では、生物系なんて行っても役に立たないから行くな、数学科や化学科、物理学科に行けとなるのでしょうか。
私も生物系院生ながらピペットマンを触る生活に嫌気が差して専攻と無関係の企業に就職することにしたため、この6年間はなんだったんだろうと思うことがしばしばです。

しかし、筆者はそのようなスタンスには立っていません。専攻とは無関係の企業や業界でも学んできたことは役に立つだろうと述べています。
この筆者のスタンスがより鮮明になっているのが、別の記事で文学部を取り上げた時のものです。文学部は理学系以上に役に立たないと批判されがちですね。

文学部就活最強論!?~役立たず批判を検証してみた

上中下とありますが、特にこの中編で気になる単語が出てきます。
「キャリア教育の弊害」というものです。

なるほどそうかも知れません。
帰省中に親と話して、働く意義についての価値観が世代間で大きく異なるのではないかとふと思いました。
現代の若者(20代くらいまで?)は職業選択の際に充実して働けそうか、やりがいを感じられるかといったように仕事を通じた自己実現に重きを置きがちなのかなと思います。
それに対して、より上の世代では食っていくためにやるものという割り切りの気持ちが強いようです。
現代の若者はなぜそこまで特定の職業に向いているかどうか、熱意があるかどうかといったような考えを早期から煮詰めるのかという疑問を持つのももっともでしょう。

勿論このような価値観の形成には、時代によって就活の厳しさの波が上下していることも大きく関わっていることでしょう(私の親はバブル世代です)。
しかし、それ以上に大きいのは学校でキャリア教育という概念があったかどうかという差ではないかと考えます。

キャリア教育では、将来の夢を持ってそれを実現させるために学習することを奨励してきます。
これはおそらく、かつては進路決定の直前になるまで就業することをそこまで深くは考えなかったという上の世代の反省、更にいうと考えなかったのは働くということを教育現場で教えてこなかったからではないかという反省から来ているのだと思います。
それは確かにそうなんでしょう。しかし、逆もまた真なりでキャリア教育の思想が行き過ぎると、働くために役に立つことを勉強する、役に立たないことは勉強しないというものになってしまいます。

このため、記事中にもあるように特に地方の高校生の間では医療系学部が人気となっています。私の母校も地方でしたがやはりそうでした。
もっと踏み込んだことを言うと、地方進学校のトップ層の間では東大より国公立医学部という流れになっています。
以下の記事にあるように、医学部用予備校の講師という全く別の立場からもキャリア教育という言葉が出てきています。

受験生殺到”医学部バブル”が弾けない理由

東大に出ると公務員や地銀、教員、地方紙(地方によっては電力会社やテレビ局も?)くらいでしか地元に帰ってこられないからという地元志向の要素もかなり大きいですが、キャリア教育の影響も大きいことでしょう。

私からしたら、高校生の読者の方(いるのかな?)には諸手を挙げて生物系の学部を勧めるとは言い難いところも確かにあります。
特に生物系では、たとえ東大生や東大卒と言えどもUターン就職をするためだとか、研究者生活をやってはいたけど行き詰まっただとかいうことで、地元の医学部を再受験したり学士入学をしたりして学生をやり直している人も散見されます。
社会からの需要に頼らず自分の興味ある事柄で生計を立てるというのは、それ程までに難しいものです。
そのため、社会からの需要が旺盛な工学部の機械系や電気系、情報系であるとか法学部、経済学部に行くことをお勧めしたくなります。

しかし、以上のことを考えると「せっかく大学に行くのだから学んだことは働く際に役に立てるべき」という思想は中学や高校で植え付けられたものとも言えなくはないです。
生物系を始めとして社会からの需要が少ない専攻の学生の方々は、もうその専攻を選んでしまったからといってそこまで思い詰める必要はないと思うのです。

私の所属している研究室でも卒業生の就職先としてはシステムエンジニア(SE)、コンサルタント、公務員(国家・地方いずれも)が多いです。
これらの仕事では分子生物学の専門的な知識や実験手技を直接生かせる場面は確かにそれ程多くないことでしょう。
しかし、仮説検証の能力や論理的思考、数字に科学的根拠を与える科学リテラシーといったように研究で培ってきた普遍的なスキルを生かしているのかなと思うのです。

ではまたの機会に。